明珍 宏和「幕が上がる、その前に」第1回 ── ヴェルディとプッチーニの精神を現代へ・音楽と社会をつなぐリソルジメント【再生・復興】
当団体は、
ヴェルディやプッチーニを中心とするレパートリーを通じ、
「リソルジメント(Risorgimento)」の精神を現代に蘇らせることを
使命の一つとしています。
リソルジメントは19世紀イタリアにおける国家統一運動であり、
文化的アイデンティティの再生と、
個人の尊厳の回復を象徴するものでした。
その理念は、
平和、音楽家の育成と環境整備、音楽業界の在り方、
そしてコロナ禍を経た娯楽産業の新しい経営的課題に至るまで、
あらゆる領域に通じます。
誰かに完全に支配される状況から脱却し、
自らの意志と創造力で歩む姿勢こそが、
未来を切り開く原動力になると、
私は信じています。
クラシック音楽は、
多くの場合「塀の外」にあるものと捉えられ、
日常生活との距離を感じさせます。
しかし現実には、
社会はクラシック音楽の響きに満ちています。
街角でふと耳にする旋律、
映像作品の中の一節──。
その存在は身近でありながら、
人々の心には“見えない堰”があり、
それが大きな隔たりを生み出しています。
私たちは、この〈堰〉が生じる理由を探り、
社会と確かなつながりを持つ音楽活動を展開します。
それは、
単に「高尚」や「浮世離れ」といった殻に閉じこもるのではなく、
誰にとっても手の届く、心に寄り添い、
必要とされる存在になることです。
イタリア料理において、
重要な要素の一つが「乳化」です。
水と油のように相容れないものも、
「乳化」によって一体となり、
味わいに奥行きを生み出します。
イタリア音楽にも、
この“乳化”に似た力が宿っています。
異なる要素を融合し、
深い感動と共感を生み出す──。
それこそが、
私たちを惹きつけてやまない理由です。
私たちは、
歌手、音楽、そして聴衆の心を“乳化”させ、
共感を育む場を創出します。
この「心の乳化」こそが、
これからの音楽家が目指すべき新しい在り方であると、
私は確信しています。
プリンスオペラ主宰
明珍 宏和
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