明珍 宏和「幕が上がる、その前に」第2回 ── Ⅰ.若手声楽家への思い


音楽を志す若手声楽家たちは、

日々の練習や学びに全身全霊を注いでいます。


発声法や呼吸法、音域の拡張などの基礎を磨く一方で、

表現力や演技力も同時に鍛えなければなりません。


さらにイタリア語、ドイツ語、フランス語など複数の言語を習得し、

作品の歴史的背景や作曲家・台本作家・作詩家の意図まで

深く理解する必要があります。


舞台での演技や身体表現も学び、

音楽と演劇を一体化させることが求められます。



こうした複雑で膨大な学習を重ねたうえで、

声楽家が本当に力を伸ばすためには、

舞台での経験が不可欠です。


舞台での成功体験や失敗体験、観客の反応は、

どんなレッスンや練習室でのトレーニングにも代えがたい学びをもたらします。


聴衆の反応を肌で感じ、

自分の声がどのように伝わるかを体感する瞬間こそ、

声楽家の感性や表現力を大きく成長させます。


練習では完璧にできるフレーズも、

舞台上の緊張や共演者との呼吸のずれで思うようにいかないことがあります。


その「生の経験」を通じて、

声楽家は自己を客観的に見つめ、学び、進化していくのです。



しかし現実には、

舞台に立つ機会は限られています。


特に卒業直後の若手声楽家にとって大きな舞台は遠く、

才能がありながらも経験を積めないまま音楽界を去る人が少なくありません。


舞台での経験は単なる技術の習得ではなく、

声楽家としての人格形成や精神的な強さを養う貴重な機会です。


だからこそ、

若手声楽家が安心して挑戦できる舞台を提供することは、

音楽界の未来を支える基盤となるのです。



(つづく)







プリンスオペラ 主宰

明珍 宏和