3/29 堂守役・小野寺光さん インタビュー
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。
みなさまのインタビューをお届けしております。
第11回は、3/29堂守役・小野寺光さんのインタビューです。
小野寺光(おのでら ひかる)
昭和音楽大学卒業、同大学大学院修了。
その後、イタリアのジェノバ音楽院にて研鑽を積む。第3回立石信雄海外研修奨学金、昭和音楽大学下八川圭祐基金、同大学同伶会海外研修奨学金を得て、イタリアに留学。
第45回イタリア声楽コンコルソ・ミラノ大賞受賞。2017年イタリア・ストレーザ国際声楽コンクール第1位。
2017年イタリア、マルティーナ・フランカのヴァッレ・ディトリア音楽祭にて「ジャンニ・スキッキ」タイトルロール及びシモーネに出演。
藤原歌劇団には、帝国ホテル主催ジ・インペリアルオペラ「フィガロの結婚」フィガロ、第1回ベルカントオペラフェスティバル イン ジャパン「フランチェスカ・ダ・リミニ」グイードを経て、19年「ランスへの旅」シドニー卿で本公演デビュー。
その後、2021年「フィガロの結婚」フィガロ、「ラ・ボエーム 」コッリーネ、「清教徒」ジョルジョ、22年「コジ・ファン・トゥッテ 」アルフォンソで好演。
藤原歌劇団団員。男声ヴォーカルユニット『URANO』メンバー。昭和音楽大学非常勤講師。
「今日はこれから、オーディオブックの収録なんです。コロナ禍をきっかけに仕事の幅を広げようと考えて、プロの声優の方を師匠と仰ぎ、ナレーションのレッスンを受けるようになりました。一昨年あたりから、師匠にご紹介をいただいて、『オトバンク』という会社からのご依頼をいただくようになりました。
これまでにビジネス書や伝記、さまざまなジャンルの本をこれまでに15~6冊ほど読んできました。一回の収録は1日あたり4時間ほど。それを2~3日ほど積み重ねて、一冊の本をオーディオブックとして完成させるんです。」
「検索すると出てきますよ」と教えていただき、インタビューの後に調べてみました。儒教・道教・仏教を基にした中国の処世術を現代に翻訳した『超訳 菜根譚』をはじめ、介護や不登校、ビジネス現場での行動心理学など、多岐にわたる作品のナレーションをつとめられておいでの小野寺さん。以下のリンクから、その一例をお聴きになっていただけます。
「自分はずっと歌ってきたし、オペラと同じように声を使う職業だから、ナレーションの仕事も比較的近い位置にあると考えていたんですね。けれど、実際に取り組んでみると、オペラの舞台での子音や母音の扱い方と、マイクを通して伝える扱い方は、まったく違うものでした。
オペラの舞台では子音をあえて強調させたり、また呼吸の深さや速さによって表情の色合いを変えるのが、必要不可欠の技術。けれど、マイクを通したナレーションでは、それがノイズになってしまうんです。試行錯誤もありましたが、いまはひと月に一度ほどの周期で、都内で収録の機会をいただくようになりました。オペラとは表現方法がことなりますが、〈伝える〉という本質は同じですね。」
──お話をお伺いしていると、ご自身を客観的に見つめ、改善を繰り返しながら取り組まれてきた姿に、小野寺さんの職人気質をつよく感じます。
オペラの舞台ではこれまでに、《ファルスタッフ》や《ジャンニ・スキッキ》のタイトルロールなど、喜劇的な要素が必要とされる役を多く演じてこられましたね。柔道選手を目指していた中学時代、吉本興業に進むか、歌に取り組むかという選択肢の狭間に立たれたというエピソードを知って、少年時代からの思いがつながって、ひとつになったことを感じました。
今回の《トスカ》堂守役でも、小野寺さんが歌い始めると空気が華やかに、明るくなるのを感じます。そうした姿からも、小野寺さんのプロフェッショナルとしての矜持を感じます。
「ありがとうございます。そうですね、やはり喜劇がとても好きですね。《トスカ》でいうと、スカルピアなどのシリアスな役には憧れもあります。ただ、お客さんが聴きたいか、そして自分に合っているかという視点で考えてみると、すこし違うところにある役なのかもしれません。
ファルスタッフ役も、ジャンニ・スキッキ役も、『この役を小野寺光にやらせよう』と思ってくださった方々がいらしたおかげで、取り組むことができました。ただ、面白さに走りたいと思ってしまう自分を、真っ向勝負を避けてしまう気質なのだろうかと考えることもあります。変化球を投げるのが好きなのかもしれませんね。」
──変化球は、確かな技術と、全体のバランスを高い視座から見渡せる能力がないと、投げられないものだと思います。強いストレートを持っているからこその、変化球ですね。
「ストレートがすっぽ抜けないといいな、とは思います。自分の個性を活かせるような役として、《リゴレット》タイトルロールや、《道化師》のトニオなどにも、機会があったら積極的に取り組んでいきたいですね。」
──いずれもとても魅力的な上演になりそうです。さて、小野寺さんは第一線の舞台での仕事と並行して、小学校などへのアウトリーチ活動にも積極的に取り組まれておいでですね。資料を拝見したときに、宮沢賢治の《星めぐりの歌》がレパートリーに入っていて、岩手県ご出身の小野寺さんらしいなと思いました。
「宮沢賢治の《星めぐりの歌》は、詩を朗読した後に演奏するんです。青島広志先生による編曲作品を好んで演奏させていただくのですが、その前奏が夜空のきらめきを思わせるもの。だから、いつも子どもたちに『夜空を想像しながら聴いてみてね』って伝えているんですよ。」
──とても素敵なお話ですね。オペラの舞台で歌われるときと、子どもたちの前で歌われるときでは、ご自身の中ではなにか違うものを感じられますか?
「アウトリーチ活動では、介護施設や障がい者施設、また小学校や中学校などに伺う機会がありますが、その中でいちばん好きなのは小学校での演奏かもしれません。自分自身も小学校の時に、体育館でピアニストの演奏を聴いたことが忘れられないんです。衝撃的な体験でした。クラシック音楽で心が揺れるということを小学生の時に体験していたからこそ、音楽を通じた心での対話を大事にしたいと願っています。
一方でオペラの現場は、ひとつの作品をチームで作り上げていくものです。作品を構成するピースとして、自分の果たすことのできる役割を考え続けていますね。自分を出し過ぎてはいけないけれど、作品の中で自分のキャラクターをいかにアピールできるか。今回の《トスカ》だったら、僕が堂守という役を演じるとしたら、どう見せられるか。次につなげられるスペシャルな何かを、常に提供していきたいと考え続けています。」
──そうした客観的な視点からも、小野寺さんのプロフェッショナルとしての姿勢が伝わってきます。今回は、どんな堂守役になりそうですか?
「じつは初役なんです。イタリアで勉強はしてきたものの、実際に舞台で演じるのは初めて。《トスカ》という作品はシリアスな場面も多いので、お客さんがクスッとなれるような瞬間が作れたらいいなとも思います。そういう点では、これまで培ってきた自分の良さが出せる役なのではないかと感じていますね。」
──音楽稽古の段階から、小野寺さんが譜面台の前に立たれると、安心感と明るさが心に広がるのを感じていました。堂守は特に、一般参加の合唱団の方々とも触れ合う機会の多い役。合唱団のみなさまにとっても、灯台のような存在になるのではないかと思います。
さて、プリンスオペラでは「若手音楽家の育成」の場であることを大事にしています。小野寺さんご自身も、大学で教鞭をとられる立場となりました。後進の育成についての思いをお聞かせいただけますか?
「大学などでは、たしかに『小野寺先生』と呼ばれる機会も増えてきました。主科声楽の学生たちも受け持つようになりましたが、自分自身も一緒に勉強し続けています。まだ途上にある自分が後進の指導について語るなどおこがましいとも思いますが、学生の頃に先生方や先輩方から教えていただいた学びを、僕のニュアンスやエッセンスで伝えていきたいと、日々願い続けています。
若い子たちをオペラ歌手や声楽家にするために育てていくという姿勢よりも、自分も共に深めていくし、彼ら自身が感じているものを信じてほしいと思いながら、指導にあたっています。そうした中で、その子たちが育ってくれたら嬉しいです。
世界を眺めてみると、19歳や20歳でのオペラデビューというのも珍しくありません。較べると、日本はどうしても遅れをとっているのは否めません。だからこそ、若いうちからオペラの舞台をたくさん経験してもらいたいと願います。経験に勝るものはありません。僕自身も、経験を積み、挫折を感じ、失敗も重ねながら育ってきました。けれど、失敗しないと人は成長していきません。失敗をおそれて、萎縮してはならない。若い方たちには、それを伝えたいですね。もちろん、僕自身もそうです。常に挑戦し続けていきたいです。」
──ありがとうございます。それでは、最後の質問です。プリンスオペラ代表の明珍さんからお預かりした質問です。
「あなたが歌う理由を、教えていただけますか?」
「この質問を、ずっと考え続けていました。歌う理由は、その時々によって変わっていくものだろうし、変わっていっていいとも思っています。いまこの瞬間、問い掛けられたときに浮かんだのは家族の顔でした。二歳になる娘、そして妻。家族の顔が浮かびました。
十代や二十代の頃は、怖いものもなく、ただ好きだったから走り続けてきました。すべてをひっくるめてみると、『自分のために歌っている』というのが、いまも根底にあるとは思います。それが美しい在り方だとも思うし、自分もそう言いたいです。言いたいんですけど……〈家族のために歌う自分〉のため、というのが、いまこの瞬間の正直な答えかもしれません。
どんな時も、歌うのは自分自身です。でも、この瞬間、娘の顔が浮かんできた。それも正直な自分自身です。これまでは、『人のために歌う』ということに、どこか距離を感じていた自分もいました。変化球が好きな自分らしい考え方だったかもしれません。けれど、娘や家族のため……という思いが湧き上がることも事実です。」
──〈家族を守りたい自分〉のため、でもいいのかもしれませんね。歳を重ねると、守りたいものも増えてきます。私自身もまた同じです。
「二十代とは心持ちがやはり違ってきましたね。歌うことへのおそれも否めない。それは正直な思いです。けれど、そうした心の揺れや震えがあってこその芸術家だと、僕は信じています。往年の偉大な歌手たちも、さまざまなプレッシャーの中でたたかい続けてきたと感じます。その中で、客観視できる冷静さと、ほんのちょっとの『自分なら大丈夫』というあっけらかんとした何かを、バランス良く育て続けてきたのでしょうね。僕もそのバランスを探りながら、自分だけのスペシャルをみんなに提供できたらいいな。そう思っています。」
──稽古場での小野寺さんはもうすでに、そのスペシャルを提供してくださっておいでだと感じています。また稽古場でお会いできるのを楽しみにしておりますね。
筆者は、二十代の頃の小野寺さんと学窓を共にしておりました。十年の歳月を経て、より豊かで魅力的な人間性と懐の深さを併せ持つ、職人肌のプロフェッショナルへと自らを育て上げていった小野寺さん。その歩みの道程を思うと、胸が熱くなりました。
小野寺さん、ありがとうございました。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、
2026年3月28日(土)・29日(日)
北とぴあ つつじホールで上演いたします。
公演情報はこちらをご覧ください。
チケットはほくチケ(オンライン)、
ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。
オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。
◎ほくとぴあチケットオンライン
みなさまと北とぴあでお会いできますことを、
心より楽しみにしております。
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