3/29 スカルピア役・今井俊輔さん インタビュー

 プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。


 みなさまのインタビューをお届けしております。


 第13回は、3/29スカルピア役・今井俊輔さんのインタビューです。


今井俊輔(いまい しゅんすけ)


群馬県前橋市出身。東京芸術大学首席卒業。同大学院修了。その後イタリアへ渡り研鑽を積む。

松田トシ賞、アカンサス賞、同声会賞受賞。第19回 2021年度上毛芸術文化賞受賞。

皇居内の桃華楽堂にて御前演奏会に参加。今上天皇皇后両陛下、上皇后陛下、皇后方に披露する。

2013年ライプツィヒとの提携公演「マクベス」マクベス役でデビュー。以降、「トスカ」スカルピア、「外套」ミケーレ、「アイーダ」アモナズロ、「ファルスタッフ」ファルスタッフ等、多くのオペラに主役級で出演。「第九」「メサイア」等のソリストとしても活躍。

劇場を包む声量と明るく倍音の豊かな響き、かつ黒く深い音色で聴衆の耳を掴むバリトンであり、卓越したテクニックと表現力のいずれもが絶賛され、国内外の指揮者やオペラ演出家からも評価が高い。

2003年より毎週月曜20時より放送中のBS日テレ「BS 日本・こころの歌」に実力派コーラスグループFORESTAメンバーとして活動。ジャンルの垣根を超え2,000曲近い曲目をレパートリーとして納めている。また、親しみやすいトークを交えたソロコンサートでも多くのファンを魅了。2018年からは全国ソロツアーを行なっており、各地で好評を得る。

CDはこれまでに2019.9.28 リリース今井俊輔ソロアルバム「I am I -イタリア-」「I am I -日本-」2020.10.28 リリース「I am I-2020-Volare!」を発売。

東京二期会会員。日本演奏家連盟会員。


──イタリアオペラにおける主要なバリトンの役を多く演じてこられた今井さん。その根幹には、東京藝術大学での学びの日々も多く影響を与えているのではないかと推察いたします。ヴェルディとプッチーニの大きな肖像が迎えてくれたレッスン室には、師匠の生き方と美意識のすべてが、濃密で薫り高いエスプレッソのように抽出されていたのではないかとも感じます。


 そうした生き方や音楽との向き合い方が、形をかえて受け継がれていることを、今井さんの高潔な芸術表現と朗らかなお人柄から感じております。もしよろしければ、いまスカルピアを演じるにあたっての心持ちを、お聞かせいただければ嬉しく存じます。



「スカルピアを演じるにあたっては、原作との比較も重ねてきました。オペラでのスカルピアは、すごく知的で礼儀正しい人物。その中に見え隠れする残虐性をいかに表現するかというのが、やりがいでもあります。バリトンの〈三大悪役〉といえば、《オテッロ》のイアーゴ、《ラ・ジョコンダ》のバルナバ、そして《トスカ》のスカルピア。そういえば、イアーゴもバルナバも、台本はボーイトが書いていますね。イアーゴも、バルナバも、まだ全幕通して演じた機会はありませんが、特にイアーゴは目標とする役のひとつです。


 いまの日本には、さまざまなタイプのオペラ歌手がいます。その中で自分は、ベルカントを基本としたイタリアオペラの発声を追求してきて、イタリアオペラのレパートリーを築いてこられたことに、周囲のご理解も含めて感謝しています。自分が理想とする声は、明るさと鋭さを持ちながらも球体のようなまろみをもった響きの声。『黒い声』と評されることは、自分の誇りでもあります。たとえば飛行機で、上質なクラスの座席に身を預けているような感覚を、聴いている方が持っていただけたらと願います。深く、黒い質感のある声を追い求めること。常にそれを心掛けて生きてきました。」




──今井さんの揺るぎない信念は、稽古場でも伝わってきます。さて、BS日テレ「BS日本・こころの歌」やYouTubeチャンネル「今ちゃんTV」など、新しい表現活動にも積極的に取り組んでおいでの今井さん。先月リリースの『I am I 2026 ~ハーモニー 日本の歌』収録の「1万回のありがとう」では、YouTubeを聴きながら涙があふれました。コメント欄にも、今井さんを慕う方々の言葉が多く並んでおいでなのが印象的でした。


 イタリア語も日本語も、言葉にのせた思いが胸に真っ直ぐ届くのが、今井さんの歌の大きな魅力だと感じています。そこでお伺いしたいのは、「イタリア語で歌う時と、日本語で歌う時、それぞれにどんなことを思っていらっしゃいますか?」という質問です。いかがでしょうか。



「オペラ歌手にとって、自分の母国語で歌うことは非常に大事なことだと考え続けています。日本に生まれたのに、日本語の歌をうたいません、というのは、とてもおかしなことじゃないかとも考えます。時には、海外のオペラ歌手が歌う日本歌曲の方が美しかったりする場合もありますよね。そういう場面に触れると、オペラ歌手が母国語で歌う意味を深く考え直します。そして、日本語で歌うことを決しておざなりにしてはならないと思います。


 オペラ歌手の中には、マイクでの歌唱を毛嫌いする方も少なくありません。ただ、偉大なテノールのエンリコ・カルーソーも、当時出始めたばかりのグラモフォン社のレコードに録音したことによって、オペラの普及につとめた。当時の録音が残されているからこそ、後世の僕たちはその恩恵にあずかっています。文化はそうやって育ってきました。


 オペラ歌手である僕が、マイクの前に立っても、やることはかわりません。マイクをいかに効果的に使うかという研究も、日々深めています。それは今の時代を生きるオペラ歌手として、大事なことだと思っています。そして、マイクでの歌唱、またテレビを通じた歌唱を聴いた方々が、実際にホールに足を運んでくださるきっかけを作ることも重要だと考えています。マイクを使わない声、オペラ歌手の豊かな響きを持つ声が、ホールをどのように包み込むか。そして、そのホールの中で、響きをどのように体感してもらえるか。そうしたら、生の舞台に、オペラに足を運んでくださる方々も増えていくはずだ。そう信じて、懸け橋になりたいと願って、歌い続けています。」



──「懸け橋になる」という考え方は、これからの時代において、とても大事なことですね。プリンスオペラは、「若手育成の場」であることも大事にしています。オーディションで選抜された若手の方々は、今井さんの背中から多くのことを学んでいるのではないかと考えております。これからオペラ歌手として身を立てていこうと志す若い方々へのメッセージがございましたら、お願いいたします。



「僕自身も、まだまだ若手の気持ちでいます。そして、自分が器用な人間ではないことも理解しているので、みんなで一緒にやっているという気持ちで取り組んでいます。


 僕は長く水泳をやってきたのちに、歌の道に進みました。大学、大学院と進んで、薦めをいただきイタリアに留学もしました。ただ、イタリアで生活するうちに、この地でキャリアを重ねていくよりも、生まれ育った日本でオペラファンの分母を増やしていくことが、自分にとってはより重要なテーマだということに気がつきました。


 いま、オペラを含めたクラシック業界は衰退の一途を辿っていると言われています。SNSでも盛んに議論が巻き起こり、さまざまな声を目にする機会も多くあります。また、AIが進化する中で、音楽も大きく変わってきました。作曲も簡単に出来るようになった。本物と見紛うようなフェイク動画も溢れています。


 でも、オペラやクラシックの生の舞台は、その時その場所に来ないと体験できない。これからの時代、その価値はより高まっていくと信じています。デジタルの壁を越えて、同じ空間で、会場で、舞台で、お客様と同じ時間を過ごす。ダイレクトに思いが、響きが伝わる瞬間を体感することができる。生音でないと伝えられないことというのは、ホールに来ることで納得できるなにかを生み出せること。それは、オペラ歌手をはじめとした音楽家にしかできないと信じています。


 もちろん、新しい時代の波に対応することも重要です。だからSNSを活用しつつ、リアルの場につなげていくために、情報をピックアップして届けていくということも大事にしています。そして、ホールでしか感じられない『倍音』を聴きに来ていただきたいと願っています。」



──プリンスオペラのSNSでも、今井さんの歌声やお人柄を慕われるみなさまと、あたたかな交流をさせていただき、感謝しております。それでは、最後の質問です。プリンスオペラ・代表の明珍さんからみなさまにお預かりした質問です。


「あなたが歌う理由を、お聞かせいただけますか?」



 この質問に、今井さんはしばし考えこみました。


「なんでかな……ただ、自分のために歌いたいって思えることは事実です。歌う理由……僕は最近、すごく考えが変わる機会があったんです。五、六年ほど前までは、自分のことだけで精一杯でした。自分の声を通じて、昔のイタリアオペラの黄金時代をどれだけ蘇らせることができるか、自分の声をどれだけそのレベルまで高めていけるか、それがずっと自分の中でのテーマでした。


 ただ、コンサートでさまざまな地域を巡る中で、いらしてくださる方々とのふれあいを通じて、僕自身も元気をもらうんです。でも、みなさんは、僕に会えたことで、僕の歌を聴いてくれたことで、『元気をもらいました』って言ってくださるんです。ファンクラブの中には、102歳の方もいらっしゃいます。ファン同士の方々のあいだでも、横の交流が自然と生まれていて、コンサートに行ったらお仲間の方に会えるというのも楽しみにしてくださっているんです。『コンサートのために、人工関節の手術を頑張ります』とおっしゃってくださる方もいる。十年前には、そんな景色は思いもよりませんでした。


 昨年、内科医であった父親が他界しました。十年のあいだには、見送った方々も少なくありません。僕もみなさんと一緒に、歳を重ねています。でも、たとえば先日の東京二期会の《カヴァレリア・ルスティカーナ》《道化師》にも、89歳の方が『生きがいです』と言って、いらしてくださいました。そして、東京文化会館でお仲間に会えるのも楽しみにしてくださっていました。『また会えたね』と、喜び合ってくださるのも伝わってきました。そういうのが、たまらなく嬉しいんです。


 この二、三年で自分の生きる基盤となる姿勢が180度大きく変わるような経験もありました。そうした経験をへた今、支えてくださる方々の顔が浮かびます。その方々に、みなさんに、生の響きを、倍音を届けたい。そして、みなさんの気持ちをプラスの方向に持っていきたい。そんな風にシフトチェンジしています。自分のためから、みんなのため。自然とそんな風に思えるようになりました。そのために、これからも日々精進を重ねていきたいですね。」




 ここで、稽古を再開する時間となりました。今井さんは笑顔で一礼し、稽古場へと戻っていかれました。


 稽古場からは、第二幕でのスカルピアとトスカの緊迫したやり取りが聴こえ始めました。今井さんのスカルピアは、声だけで姿が見えなくとも、知性と品格をもった人物像が浮かび上がってきます。『黒い声』のスカルピア。その存在は、唯一無二のものです。


 今井さん、ありがとうございました。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!





プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、

2026年3月28日(土)・29日(日)

北とぴあ つつじホールで上演いたします。


公演情報はこちらをご覧ください。


チケットは、ほくチケ(オンライン)、

ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。


オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。


◎ほくとぴあチケットオンライン

https://p-ticket.jp/kitabunka


みなさまと北とぴあでお会いできますことを、

心より楽しみにしております。




Prince OPERA

北区から世界へ。 プリンスオペラは 地域に根差した質の高い芸術を育て 世界に向けて発信していくことを 目指しています。