3/29 トスカ役・梶田真未さん インタビュー
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。
公演に向けて、みなさまのインタビューをお届けしております。
第14回は、3/29 トスカ役・梶田真未さんのインタビューです。
梶田真未(かじた まみ)
愛知県知多郡東浦町出身。愛知県立明和高校音楽科、東京藝術大学音楽学部声楽科(同声会賞)を卒業。
桐朋学園大学音楽研究科修士課程オペラコースを宗次德二桐朋学園大学大学院特待奨学金奨学生として首席で修了し、その後宗次德二奨学生として桐朋学園大学音楽研究科博士後期課程を修了、博士号(音楽)Doctor of Musical Arts [ D.M.A.]を取得。
第57回全日本学生音楽コンクール名古屋大会第1位、第46回イタリア声楽コンコルソフィナリスタ、第一回佐々木成子賞、第19回東京音楽コンクール"声楽の部"第一位を受賞。
‘03年全国高校野球愛知県大会開会式、‘04年名古屋ドーム日米野球開会式にて君が代を独唱。
東京二期会オペラ『イル・トロヴァトーレ』レオノーラ役アンダースタディをインターン研修として務めた後、日生劇場オペラ『ルサルカ』森の精役でデビュー。東京二期会ニューウェーブ・オペラ劇場では『アルチーナ』題名役を務め、その後東京二期会本公演にて、『三部作』托鉢係修道女役、『パルジファル』花の乙女役、『タンホイザー』エリーザベト役で出演。2025年7月『イオランタ/くるみ割り人形』東京公演、愛知公演、大分公演では題名役で出演。
その他、『魔弾の射手』アガーテ、『三部作』ジョルジェッタ&アンジェリカ、『蝶々夫人』蝶々夫人役、『パルジファル』クンドリー役のカヴァーキャストも務める。
──昨年九月の旗揚げ公演で梶田さんにお話をお伺いした時には、初めて演じるトスカへの挑戦に胸を躍らせていらしたのが印象的でした。半年が経ち、澤村マエストロの音楽稽古を経て、角さんの演出による立ち稽古も最終段階に近付いています。梶田さんの演じるトスカは、これまでのトスカのイメージを刷新するような静謐な美しさや聖女のような佇まいが非常に新鮮に感じられます。梶田さんにとって、芸術上の挑戦に日々取り組まれているのが伝わってきます。新国立劇場での《ドン・ジョヴァンニ》でのカヴァーのお仕事にも並行して臨まれてきましたね。半年の歳月をへて、さまざまな経験を重ねたいま、トスカという役への思いをお聞かせ願えますか?
「今回の《ドン・ジョヴァンニ》は再演プロダクションだったので、自分での準備期間を長く過ごしてきました。そして、劇場に入るまでに、すべてを身体にいれておく必要がありました。劇場入りからは短い期間で、上演までの日々を過ごしていきました。カヴァーへの対応も非常に手厚く、不測の事態に備える劇場側の配慮も感じられました。
自分が舞台に立つ上での勉強期間は過ぎていることは理解していますが、現場では海外から来た歌手たちの佇まいやふとした瞬間の非常にエレガントな身のこなしなど、大いに感じ入るものがありました。むかし、研修所時代に先生から『家から出たら自分じゃない人間を演じなければならないのよ』と伝えられたことも思い出しました。常に自分がどう見られるかを客観的な視点で見ること、その積み重ねがないと舞台では滲み出ないのだとも、あらためて感じました。
《トスカ》は立ち稽古に入りましたが、明珍さんが毎回送ってくださる稽古動画を見返しても、まだ身体がかたいなと感じることも少なくありません。ただ、《ドン・ジョヴァンニ》の仕事をへて、非常に意識がかわった部分がありました。稽古場での挨拶ひとつを例にとっても、『自分はここにいますよ、こんな人間ですよ』と好意を伝えることができます。積極的に動くと、相手もまた笑顔で応えてくれます。
今回演じるトスカの人間像については、最初は距離を感じていました。トスカは、非常に熱情的な女性です。ただ原作の分析を深める中で、『愛に飢えざるを得なかった女性だったんだ』と考えがかわってきました。人として気持ちが理解できて、身近にいる人になりました。その部分は分かるよ、お友達になれたらいいね……と思えるようになりました。本番までに、トスカから『演じさせてあげてもいいよ』と言ってもらえたらいいなと思います。
角さんの演出は、ひとりひとりの個性に合わせて細かく調整してくださっているのを感じます。以前、東京二期会《タンホイザー》でエリーザベト役を演じたときに、動きの設計図を伝えられた後に『あなたらしさ、そのままでいい』と言われたことを思い出しました。角さんもまた、その人らしさを大事にしてくださる演出家。個性を理解したうえで、舞台全体をよい方へ変えようと努力してくださっているのが伝わってきます。歌手の立場としては、有難いなと感謝しています。自分なりのトスカ像に向けて、本番までブラッシュアップしていきたいです。」
──本番の舞台で梶田さんの演じるトスカ、心より楽しみにしております。さて、プリンスオペラ代表・明珍さんの掲げる「北区から世界へ」という理念に共鳴してくださった梶田さん。ご自身もまた、地域に質の高い音楽芸術を根付かせていこうと、「一般社団法人地域音楽芸術の会グルッポフレスコ」の活動に携わっておいでです。ほぼ同世代にあたる明珍さんや前川さん、そして梶田さんがそれぞれに、第一線でご自身の芸術を磨き育てるのと並行して、地域へのまなざしを育て、日々実践を続けておいでのご様子を見ると、あらたな形での音楽芸術の可能性を感じております。もしよろしければ、地域と音楽芸術をテーマに、自由にお話をお聞かせいただければ幸いです。
「私はいま墨田区に暮らしていますが、やはり地元の人の活躍を見聞きすると素直に嬉しくなります。今年はオリンピックも開催されましたが、金メダルを取って喜んでいる同じ地元の方々の様子をインターネットやテレビで見ると、『その気持ち、わかるな』と思いながら眺めています。同じコミュニティの仲間としての共感などもあるのでしょうね。
自分に照らし合わせて考えてみると、たとえばご近所づきあいをさせていただいている方々の優しさを思い出します。旅行に行ったらお土産をお渡ししあったり、東京二期会での公演にもいらしてくださったりと、皆様とはいいおつきあいをさせていただいています。それを考えると、最初はまずご挨拶して、自分が何をしているか知っていただくことが始まりなのだと感じます。興味を抱いていただくことがきっかけで、いつしか『応援したい』という気持ちに自然とつながっていくのだなと分かりました。だからこそ、努力しないといけないと思います。自分から歩み寄って、心を開いて、笑顔で挨拶をする。そういう気持ちがあると、コミュニケーションが成り立ちます。そして、輪がすこしずつ広がっていくのを感じています。
地域における音楽芸術を育てていくのも、また同じだと感じています。地域に輪が広がっていくと、自分たちの音楽芸術を認めていただける。そうしたコミュニケーションは、人生を豊かにしてくれると感じています。その時に、押し付けたり威張ったりするのではなく、お互いがお互いを理解しあうことが非常に重要だと考えています。地域の方々に受け入れていただくように、まず自分たちが努力することが大事です。まず自分たちが心を開いて歩み寄ることによって、音楽を受け入れていただけると思います。
プリンスオペラでは、まずは自分の役割を舞台でしっかり果たすことこそが、なによりも地域への貢献になると考えています。受け入れてもらいたい。だからこそ、そのために自分たちの芸術をブラッシュアップさせていく。広げていく役割は、スタッフの方々を信頼して、お委ねしています。今は自分がトスカを演じることに集中することが、プリンスオペラが地域に受け入れられていくための第一歩だと信じています。」
──広げていく役割、しっかりと果たしてまいります。続いて、プリンスオペラの掲げる「若手声楽家の育成」について、お伺いいたします。ご自身も博士後期課程での研究を修められ、高い視座でこれからの日本の音楽界を概観される梶田さん。若い頃からのカヴァーキャストの経験を通じても、多くのことを学ばれてきたことと考えております。稽古場での梶田さんからは、誰よりも熱量をもって作品に真摯に向き合い続ける姿をつうじて、周囲に静かな影響を深くおよぼしているのを感じております。若い世代の方々へ、梶田さんの思いをお伝えいただければ幸いです。
「私自身、まだまだ未熟だと思います。けれど、これまでに東京二期会や新国立劇場でカヴァーの仕事を続けてきて、キャストとして舞台でオーケストラと歌唱させていただけてきた経験が、なにかしらいい方向に作用すればいいと願っています。
私は器用な人間ではありません。人よりも何倍も積み重ねないとなりません。できるまで、何回も何回も繰り返します。自分の姿から学んでほしいというのはおこがましい、という葛藤もあります。ただ『人のふり見て我がふり直せ』という言葉もあるように、葛藤を抱えながらあがく自分の姿から、なにかを感じ取ってもらえれば、それだけで万々歳です。
私もまた二十代から東京二期会の現場でカヴァーとしてのお仕事をさせていただき、先輩方の振る舞いから多くのことを学んできました。それは自分だけの財産となりました。そして、いま稽古場でどのように振舞えばいいかということも、そうした日々の中から学んできました。
稽古の過程をご覧になっていただく中で、若い世代の方々にはアンテナを高くしていただけたらいいなと思います。そして『自分だったらこうするな』という気持ちが湧いてきたら、それを大事にしていただきたいです。それが、自分だけの宝物になるはずです。」
──謙虚に学びを重ねてきた梶田さんの歳月の重みを感じます。それでは、最後の質問です。プリンスオペラ代表の明珍さんから、みなさまにお預かりした質問です。
「あなたが歌う理由を、教えていただけますか?」
「歌う理由は、長年考え続けてきたテーマでもあります。歌えば歌うほどに、『自分が歌を好きだと言うことは、本当に歌が好きな人に失礼にあたるのではないだろうか』という気持ちも湧いてきます。
自分は長いこと、アイデンティティの確立に悩んできたような気もします。何の取り柄もないと感じていた少女時代でしたが、それでも歌うことが好きになりました。けれど、歌に対しても、どこかで引け目を感じながら生きてきました。『歌をやめた方が、歌には失礼にあたらないんじゃないかしら』と考えることは何度もありました。
歌うことは、つらいこともあります。やめたい、逃げ出したい、もう考えたくないと思うこともあります。『なんで自分は毎日積み重ねて、うまくなっていかないんだろう』と自分を責めることもあります。たまにサボるときもあるからなのかしら、と反省する時もあります。
でも、一番近くで応援してくれる夫が、『あなたは〈歌が好きな人〉の歌をうたっていると感じるよ。あなたは、歌が好きなんだと思う』と言ってくれたことがありました。その言葉に救われたような気がしました。自分が一番信頼する人が、そう言ってくれるのだから、それを信じよう。そう思えるようになりました。
人のために何かしなくては、という気持ちもずっとありました。けれど、人のために何もできない自分に葛藤を抱えながら、これまで生きてきたように思います。人のためだなんて、おこがましい。そう思う気持ちもいなめません。
でも最近、『自分が楽しいから、歌っている。それでいいんじゃないかしら。』と思えるようになりました。夫からも、そう思って歌っている時の方が、声が喜んでいると伝えられました。人のために、じゃなくて、〈自分のために歌う〉でいいんじゃないかしら。最近は、そう思えるようになりました。
だから、今はこう答えます。自分のために、歌っています。」
そう言って、梶田さんは笑顔になりました。
少女時代からの長い葛藤の末に辿り着いた、「自分のために歌う」という答え。その答えに辿り着いた梶田さんの笑顔は、とてもすがすがしいものでした。
思慮深く、さまざまなことに時間をかけて大事に向き合われる梶田さん。これまでひとつひとつの事柄に誠実に、丁寧に取り組まれてきた軌跡が、未来へと続く道として確かなものになっているのを感じました。
梶田さんが創造する、あらたなトスカ像。ぜひ、3/29(日)つつじホールでご鑑賞ください。
梶田さん、ありがとうございました。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、
2026年3月28日(土)・29日(日)
北とぴあ つつじホールで上演いたします。
公演情報はこちらをご覧ください。
チケットは、ほくチケ(オンライン)、
ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。
オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。
◎ほくとぴあチケットオンライン
みなさまと北とぴあでお会いできますことを、
心より楽しみにしております。
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