3/28・29 アンジェロッティ役・水島正樹さん インタビュー
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」。
公演に向けて、みなさまのインタビューをお届けしております。
第15回は、3/28・29 アンジェロッティ役・水島正樹さんのインタビューです。
水島正樹(みずしま まさき)
東京藝術大学卒業(同声会賞)、二期会オペラ研修所修了。2017年から約2年間ドイツ・フライブルクに留学し研鑽を積む。
第33回飯塚新人音楽コンクール入選。2018岐阜国際音楽祭コンクール第2位・文化人特別賞を受賞。第4回日光国際コンクール入選、第1回イブラ・グランド・アワード・ジャパン・コンクール声楽部門入賞、市川市新人演奏家コンクール優秀賞、第1回ジュディッタ・パスタ記念熊本復興国際オペラ歌手コンクール第2位、トスティ国際歌曲コンクール2023日本本選入選。
2015年東京文化会館における「二期会新進演奏家の夕べ」に出演後、東京二期会では2019年『エロディアード』大祭司、2023年『午後の曳航』5号、2024年『タンホイザー』ラインマル、『デイダミーア』リコメーデ、『影のない女』バラクの兄弟で出演。
東京・春・音楽祭ではリッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミーin東京」『アッティラ』レオーネ、2025年『パルジファル』ティトゥレル等、目覚ましい活躍を続ける。
コンサートでも、ヘンデル「メサイア」(モーツァルト編)、ベートーヴェン「合唱幻想曲」、「第九」などのソリストを務める。
東京都出身。二期会会員
──東京・春・音楽祭《アッティラ》レオーネ役、《パルジファル》ティトゥレル役でのご出演に続き、今年の四月にも「東京春祭マラソン・コンサート vol.16 旅するモーツァルト、旅するウェーバー【第Ⅲ部】新時代への旅」のご出演を控える水島さん。公式のプログラムを拝見すると、シカネーダーが《魔笛》の続編として書いた《迷宮》(ヴィンター作曲)も演奏されるとのことですね。モーツァルトからウェーバーまでの潮流を概観する上でも、非常に重要かつ意欲的なプログラムと感じておりました。
東京二期会《午後の曳航》、《影のない女》など、音楽の複雑さに加えて、高度な演技力も必要とされる作品にも多く登用される水島さん。それは現場での確かな信頼の積み重ねがあってこそだと感じております。今回の《トスカ》の稽古場でも、音楽稽古の段階から、求める表現をさまざまなレイヤーにわたって声・言葉・身体で翻訳しようとされる姿がとても印象的です。
水島さんが表現の現場に向かうまでには、日頃どのような準備を積み重ねておいででしょうか。よろしければ、お聴かせ願えれば幸いです。
「歌手には様々な役作りのタイプがいます。戯曲を読み込んで、分析されるという方も多い。ただ、僕自身は、すべては楽譜に書いてあると考えています。楽曲分析することからはじめて、この言葉の音が高くなっている意味は何だろうとか、和音の変化などから考えていきます。そして稽古に入ってから、指揮者や演出家、共演の歌手たちとの音楽、また時にはディスカッションを通じて、認識を擦り合わせていきます。指揮者や演出家の意向を重視しながら、柔軟に対応できるようにしています。自分の音楽づくりや役づくりはこう、というのは、僕はないですね。むしろそれは、楽譜に書かれた作曲家の意図を再現する上では、邪魔なものになるとも思っています。できるだけ、ニュートラルな状態に保つことを心掛けています。
《午後の曳航》では、音楽を身体に入れるまでがひと苦労でしたね。でも、すべては楽譜に書かれているから、僕はただ楽譜に書かれたことを再現しただけ。基本的には、どの作品でも同じです。
そうした意味で、これまで最も印象深かった指揮者はムーティ。彼もまた、楽譜に書かれたことを重視する音楽家でした。ムーティだけでなく、ヤノフスキもそうですが、この二人は歌が楽器の一部であることを求める指揮者でした。歌手を重視するタイプ、歌手も楽器の一部と考えるタイプ、仕事をしているとさまざまな指揮者と出会います。そのたびに、自分はニュートラルな状態にたもったうえで、現場で音楽をつくりあげていきます。」
──「楽譜に書かれていることを、ただ再現するだけ」という水島さんの芸術家としての信念は、非常にシンプルで美しいものですね。削ぎ落された美学を感じます。
本プロダクションでは、両日に渡ってアンジェロッティ役でご出演の水島さん。これまで演じてこられた経験の積み重ねが、こまかな息遣いや言葉の扱い方からも深く伝わってきます。また作品の中でアンジェロッティという人物が果たす役割を精確に認識され、両組の個性がことなるカヴァラドッシとの関係性を音楽面からも築こうとされている姿勢も感じております。
今回のプロダクションにおいて、水島さんが特に感じられることがあったら、お聞かせ願えれば幸いです。
「研修所時代の友人である前川さんから、明珍さんを紹介いただきました。初対面からとても優しい方でした。そして音楽稽古から公演間近の今日まで見てきて、めちゃくちゃ能力のあるすごい方だなと感服しています。制作と演者を両立することは、とても大変なことです。でも彼は、それを両方とも非常に高いレベルでこなしている。感服します。周りも、誰ひとりとしていやな人がいない。気持ちのいい人ばかりです。すごいことです。
若手を育成するというのは、気持ちがあっても誰にでも出来ることではありません。それを、明珍さんはひとりで立ち上がった。中堅世代とダブルキャストで、同じ演目に取り組んでいくという仕組みを作り上げた。みんな、同じラインに立っていて、同じ目線で演目に向かっていて、演者としてとても気持ちがいいです。そして、こうして公演も間近となりました。お客さまに見ていただくことが何より重要です。
プリンスオペラの旗揚げ公演に携わることができているのは、自分にとっても光栄なことです。プロダクションのピースとなって、公演の成功に向けて自分の役割を果たしていきたいです。」
──「気持ちのいい」ということと同義の、「すがすがしさ」を前川さんも語っておいででしたね。
さて、プリンスオペラでは「若手声楽家の育成」という側面を重視しています。水島さんに憧れる若手世代の方からも多く話を聴きます。この十年間、フライブルクへの留学をはじめ、ご自身もまた、さまざまに模索を重ねられてきた中で、今の地位と現場での信頼を築いてこられたと考えております。水島さんもまた後進の育成に携わる中で、これまでの学びで得られたご経験や知見を、やはりご自身の言葉で翻訳して伝えておいでではないかと推察します。
特に水島さんと同じ声種のバリトン歌手の方々は、声の成熟に時間がかかることもあり、若いうちには焦ったりすることも少なくはないかと思います。もしよろしければ、若い世代のバリトン歌手の方々へ、アドバイスがございましたらお願いいたします。
「バリトンは、若いうちはどうしても苦労をしますよね……。研修所から十年の歳月をへて、僕自身も大学院での学びや海外での経験を重ねてきました。そうした日々を振り返ると、なによりも人生経験を積むことが重要だと考えています。テクニックも表現力も、人間としての土台がしっかりあってこそ、成熟したものになってきます。
僕自身も歳下の方から学ぶことも多く、またオペラ歌手として今後のさらなるキャリアアップも考えた上で準備を重ねています。音楽業界では公演ごとの契約が主となっており、どうしても不安定です。そのため、企業でも勤めながら、人生設計を考えています。
そうした中で、プリンスオペラに参加して、さまざまな世代の先輩・後輩と分け隔てなく、同じ目線で作品づくりに取り組めていることは非常に新鮮です。いいプロダクションだと思いますよ。本当に。」
──現実を冷静に見つめながら、自分のキャリアを拓いていくための長期的な戦略を練ることも重要なことですね。それでは、最後の質問です。プリンスオペラ代表の明珍さんから、みなさまにお預かりした質問です。
「あなたが歌う理由を、教えていただけますか?」
「仕事です。
生活をするために、歌っています。……というと、現実的すぎるのかな。でも、実際にそれが僕の答えです。
さっきもお話しましたが、僕は企業に勤めつつ、オペラ歌手としてのキャリア育成を心掛けてきました。それは、僕の音楽を支えてくれた親に恩返しをしたかったから。様々な面で援助してくれた家族に、恩返しをするつもりで、この十年を過ごしてきました。おかげさまで去年、ようやくひとつの区切りを迎えることができました。ここからは、自分自身のキャリアアップに集中していけます。
キャリアアップの武器は、僕にとってはやはり歌。社会でなにかを発揮できるとしたら、歌をうたうこと以外にはありません。
だから、仕事です。」
きっぱりと言い切ったあとに、「……そう思っているから、打ち上げとかあんまり好きじゃないんですよね、実は」と破顔一笑の水島さん。釣り込まれて、筆者も思わず笑い声を上げました。
どこまでもストイックな、信頼できるプロフェッショナル。そして、なにより仕事人。水島さんと十年ぶりに語り、その思いを新たに持ちました。
仕事人としての水島さんが演じるアンジェロッティ。どうぞ両日ともに、北とぴあでご鑑賞ください。
水島さん、ありがとうございました。公演に向けて、どうぞよろしくお願いいたします!
プリンスオペラ第1回公演「トスカ」は、
2026年3月28日(土)・29日(日)
北とぴあ つつじホールで上演いたします。
公演情報はこちらをご覧ください。
チケットは、ほくチケ(オンライン)、
ならびに北とぴあ1階窓口にて好評販売中です。
オンラインでのお申込みはこちらからお願いいたします。
◎ほくとぴあチケットオンライン
みなさまと北とぴあでお会いできますことを、
心より楽しみにしております。
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