《仮面舞踏会》千穐楽組 レナート役・明珍宏和(プリンスオペラ代表) インタビュー
プリンスオペラ第2回公演《仮面舞踏会》。公演に向けて、キャストインタビューをお届けしてまいります。
インタビュー第1回は、千穐楽組のレナート役をつとめる弊団体代表の明珍宏和です。
今回のインタビューでは、子ども時代の思い出、またオペラ歌手になる途上での大切な思い出なども含めて、ご出演のみなさまにメールでお伺いしていく予定です。
明珍宏和(みょうちん ひろかず)/バリトン
東京音楽大学卒業。二期会オペラ研修所53期マスタークラスを奨学金を得て修了。
修了時に優秀賞を受賞。2015年-2018年にベルリン、パリへ遊学。
声楽を太刀川悦代、松井康司の各氏に師事。
第57回全日本学生音楽コンクール東京大会奨励賞。
第12回日本アンサンブルコンクール優秀演奏者賞、全音楽譜出版社賞。
第22回友愛ドイツ歌曲コンクール入選。
第1回ジュリアード音楽院声楽オーディション奨励賞を受賞。
これまでに海外公演はロバート・クラウダー基金より招聘を受けてアラタニ日米劇場(ロサンゼルス、2015)、日米文化会館(JACCC)の招聘を受けてウォルト・ディズニー・コンサートホールでの「Bridge to Joy」(ロサンゼルス、2017)にて、ベートーヴェン「第九」、「合唱幻想曲」のソリスト等に出演。その他、メサイア(ヘンデル)、レクイエム(フォーレ)、レクイエム(バーンスタイン)、ミサ曲5番(シューベルト)などのソリストも務める。
NISSAY OPERA 2021『ラ・ボエーム』にマルチェッロ役のアンダースタディとして参加。
2025年のコンサートでは山形テルサホール、秋田アトリオンホール、愛知県芸術文化センター、大阪住友生命いずみホール、横浜みなとみらいホール、サントリーホール大ホールにてウィーン・シュトラウス・カペレと共演し、オペレッタ「メリーウィドー」から、ダニロの名場面を演唱。
また、ピアニスト・作曲家の山田武彦氏と、解説に松井康司氏を迎え、日本人では前人未到のシューベルト歌曲全曲演奏会の初回を北とぴあにて開催(2026年は7月12日に2回目を開催、2027年2月28日に3回目を開催する)。
2026年3月28日、29日には主宰オペラ団体「プリンスオペラ」旗揚げ公演
歌劇『トスカ』を北とぴあにて開催、28日のスカルピア役を務める。
2027年6月26日、27日には同オペラ団体公演『仮面舞踏会』を開催を予定し、レナート役を務める。
その他、2004年から開始している「おしゃべりさいたる」というタイトルの
トークコンサートを全国で開催しており、開催数は600回を超える。
練馬区演奏家協会会員。ペシャワール会会員。
◆どんな子ども時代を過ごしてきましたか? その頃の思い出、そして忘れられない子ども時代のおやつと共に教えてください。
子どもの頃は、本当に四六時中、釣りをしていました。
人としゃべっているよりも、一人で釣りをしながら、自分のことやいろいろなことを考えている時間の方が長いような子どもだったので、母親からは随分心配されて育ったそうです。
とにかく年中釣りに行っていましたから、顔も腕もいつも日焼けして真っ黒でした。子ども時代の自分を思い浮かべると、まずその姿が浮かびます。
忘れられないおやつは、カステラと芋ようかんです。
特に芋ようかんは、初めて食べたときに「世の中にこんなにおいしいお菓子があるのか」と感動したことを、今でもよく覚えています。
また、うちの近所に東太楼という和菓子屋さんがあったのですが(数年前に閉店してしまいがっくりしております)、そこのすあまが好きで祖母によく買ってもらっていたことを覚えています。
なかなか、すあま好きだという子供はいないだろうなと、今考えると少しおかしいです(笑)
◆歌を始めたばかりの頃やオペラ歌手になる途上において、忘れられない出会いや時間があったらお伺いしてもよろしいでしょうか。
実は、もともと私は歌手よりも指揮者になりたいと思っていました。
そのため指揮の勉強をしていた時期があり、その中で高校生くらいの頃に、三善晃先生や関屋晋先生といった、日本の合唱音楽に非常に大きな足跡を残された方々と同じ舞台に立つ機会がありました。
当時は、その時間がどれほど貴重なものなのかを十分に理解していなかったかもしれません。ただ、今になって振り返ってみると、本当に恵まれた経験だったと思います。
そして、長く音楽を続けていると、音楽の世界だけでは説明できない「縁」というものを感じることがあります。
一見すると音楽とはまったく関係のないところで出会った人との縁が、巡り巡って音楽の仕事につながったり、ずっと後になって自分の人生の大切なところにつながってきたりする。
人間の巡り合わせというのは本当に不思議なものだと思います。
音楽家との出会いだけではなく、そうしたさまざまな場所で生まれた人との縁も、今の自分を作っている大切なものだと思っています。
◆現在はどのようなレパートリーを中心とされていますか? また、これからどのようなレパートリーを育てていきたいですか? あわせてお伺いできたら嬉しいです。
現在、私のレパートリーの大きな柱になっているのは歌曲です。
特にドイツ歌曲を中心に、古典派後期からロマン派の終わり頃までの作品を多く勉強し、演奏してきました。
一方で、40歳を超えて、自分自身の身体のつくりや精神状態、そして声の質感も明らかに変化してきたと感じています。
若い頃とは違って、少しずつ「等身大の人間」というものを表現できるようになってきたのではないかと思うんです。
歌曲とオペラは、同じ「歌う」という行為であっても、表現の方法はかなり違います。
私自身、歌曲というものは、身体的な動きや過度に劇的な声の表現に頼るのではなく、もっと限定された空間の中で、言葉と音楽によって世界を立ち上げていくものだと考えています。
それに対してオペラでは、歌唱表現、音楽表現、身体表現、そのすべてを使って、一人の人間のドラマを作り上げることができます。
これからは、そうした自分の身体や声をすべて使って、「人間そのもの」を描くことのできる役に、より深く取り組んでいきたいと思っています。
時代としても、古典派の前半というより、古典派の後期からロマン派、さらにその先の作品に、今の自分はより強く惹かれています。
ただ、「この役を必ず歌いたい」ということだけを先行させるのではなく、その時々の自分の声の状態や声の深さ、身体の変化をきちんと見ながら、無理なく自分に合った役を育てていきたいですね。
そうして年齢を重ねながら、その時にしかできない役に出会っていけたら、とても面白い歌手人生になるのではないかと思っています。
◆今回の《仮面舞踏会》についてお伺いいたします。あなたが担当される役について、いまの想いを自由に綴っていただければ幸いです。
レナートという人物は、私にとって非常に「人間くさい」役です。
現代の社会にも、こういう人はいるのではないでしょうか。
とても真面目で、公のために尽くそうという気持ちが強く、自分が「これが正しい」と信じたものに対しては、迷うことなく突き進んでいく。
けれども、信じる力が強い人ほど、それを裏切られたときの反動もまた激しいものになるのだと思います。
自分が絶対に信頼していた人、自分が仕えてきた人、そして自分が守っていると思っていた家庭。そのすべてについて、「自分が信じていたものとはまったく違うことが起きていた」と知ってしまう。
もちろん現実の世界であれば、彼が最後にとる行動は犯罪ですし、それを肯定することはできません。
けれどもこれは劇ですから、その人間の感情が極限まで拡大され、ひとつの劇的な出来事として描かれています。
そう考えると、「まったく理解できない」とも言い切れないんです。
あれだけ堅く、真面目に、正しいと信じるものに従って生きてきた人間だからこそ、すべてが崩れた瞬間に、あれほど激しい方向へ振れてしまう。その危うさには、ある種の同情や共感も覚えます。
おそらく、この事件さえ起きなければ、レナートはアメーリアとともに、非常に堅実で平穏な人生を送っていたのでしょう。
そんな人間の人生にも、ある瞬間に想像もしなかった亀裂が入り、それまでとはまったく違う人間の顔が現れてしまう。
そこがレナートという人物の怖さでもあり、面白さでもあると思っています。
《仮面舞踏会》を見るたびに、「人間というのは、置かれた状況によってここまで変わってしまうものなのかもしれない」と考えさせられます。
それを舞台の上でどう生きることができるのか。今はそこにとても興味があります。
◆最後に、この記事を読んでくださる方々へ、公演への想いをお届けいただけますか?
プリンスオペラを立ち上げてから、私がずっと考えているのは、オペラを「公演を一度行って終わるもの」にしたくない、ということです。
舞台の上には歌手がいて、オーケストラがいて、スタッフがいて、その周りには地域に暮らす方々がいて、子どもたちがいて、これから舞台を目指す若い芸術家たちがいる。
そうした人たちが少しずつ交わりながら、ひとつの舞台が生まれていく。
私は、プリンスオペラをそんな場所にしていきたいと思っています。
そして、オペラというものは一見すると、とても非現実的な世界です。
歌いながら人を愛し、歌いながら憎み、裏切り、時には人を殺し、そして死んでいく。
けれども、その大きな「虚構」の中にこそ、私たちが普段は言葉にできない、とても生々しい人間の真実があるのではないでしょうか。
今回の《仮面舞踏会》も、愛情、友情、信頼、嫉妬、裏切り、復讐、そして許しという、人間が何百年経ってもおそらく変わることのない感情を描いた作品です。
だから私は、オペラを単に美しい声や豪華な舞台を楽しむものとしてだけではなく、そこに生きている人間を見ていただきたいと思っています。
また、プリンスオペラとしては、この北区・王子という場所で舞台を作りながら、地域の方々や子どもたち、そしてこれからの時代を担う若い芸術家たちが出会い、「ここで舞台芸術が育っている」と感じられるような場所を作っていきたいと考えています。
地域に根を張ることと、高い水準の舞台芸術を目指すことは、決して別のことではありません。
この場所で育ったものが、やがて東京の外へ、そしていつか世界へも届いていく。
そんな循環を作れたらと思っています。
舞台を作るという行為には、どこか「祈り」に近いものがあると私は感じています。
その日、その場所に集まった人たちが同じ時間を共有し、その時間は二度とまったく同じ形では訪れない。
だからこそ、一回一回の舞台に、自分たちが今できることを精いっぱい込めたい。
《仮面舞踏会》を初めてご覧になる方にも、長くオペラを愛してくださっている方にも、物語の中の誰かに自分自身を重ねながら、この作品が描く「人間」を感じていただけたら嬉しいです。
ぜひ劇場で、私たちと一緒にその時間を過ごしていただければと思います。
本記事内のプリンスオペラ第1回公演《トスカ》舞台写真は、写真家の長澤直子さまが撮影くださいました。長澤さまに心より篤く感謝申し上げます。
プリンスオペラ第2回公演《仮面舞踏会》。まずはオーディションに合格された初日組の皆さまに、少しずつメールを通じてお話をお伺いしてまいります。どうぞ心長く、お楽しみいただけましたら幸いです。
プリンスオペラ第2回公演《仮面舞踏会》は、2027年6月26日(土)・27日(日)に、北区王子の北とぴあ さくらホールで上演いたします。
来夏、皆さまにさくらホールでお目にかかれますことを心待ちにしております。
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